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辺境発のオピニオン


by karatsuzine

障害者自立支援法案

 現在国会で審議されている法案の中に、「障害者自立支援法案」(厚生労働省HP)というものがある。4月26日に衆議院審議入りしたこの法案に対して、障害者団体等、各方面から批判の声が挙がっている。一体これはどういった法案なのだろうか。

 障害者の支援を目的とした現行の制度(法律)は、大きく分けて3つ存在する。
 現存する疾患が将来障害を残すと認められる児童を対象とした、「育成医療制度」(児童福祉法)。
 身体障害者を対象とした、「更正医療制度」(身体障害者福祉法)。
 そして、精神障害者を対象とした、「精神通院公費制度」(精神保健福祉法)である。
 障害者自立支援法案では、この3つの現行制度を一本化して効率化させる事、そして障害者の地域での就業等自立を支援していく事などを目的として、審議が進められている。その理念自体にはさほど問題は感じられないし、むしろ好ましいことであると思う。では、一体何が問題なのであろうか?

 この法案は上に述べたように文字通り、障害者の自立を支援するといった目的を持っている。しかしその一方で、現在の給付制度を見直すという側面も持っている。
 それは国・地方が負担する給付額を削減する、つまりは増大する国・地方の医療費支出を削減するという目的も、持っているという事だ。
 具体的には、所得にかかわらず患者の負担を一割に統一するという事であり、ここが一番の問題となっているのだ。

 精神通院公費制度を例に挙げると、精神疾患を抱えた患者は、5%の負担で現在は通院する事ができる。俗に言う「32条」というものだ。殆どの場合就業が困難である精神障害者にとっては、一割の負担であってもその意味は大きい。
 特に鬱病においては、通院を通じた適切な治療により、ある程度その症状が軽減される、もしくは症状の悪化を抑えられるという事実がある。鬱病は極めて自殺率の高い疾患であり、治療の重要性は命に関わる場合も多い。
 医療費の負担増は、収入の無い、もしくは少ない患者の足を病院から遠のかせる事となりかねず、それが原因で症状が悪化し、社会復帰が遅れてしまうというケースも引き起こしかねない。そういった形でやむを得ず失業してしまう人が増加する事は、国にとっても好ましくはないのは明らかである。
 精神障害を抱えた患者は、施設に入居している重度の患者でも企業で働きたいという意欲を持っている人が多い。前述の厚労省資料においても、その割合は66.5%と高い。在宅の精神障害者においても、同様に多くの人が社会復帰を望んでいると考えられる。これらの患者の治療を、費用という側面で妨げてしまう事を行うべきではないと思う。

 育成医療制度の分野でも、負担増の影響は深刻である。心臓病においては、手術において数百万円と、莫大な金額がかかる。しかも継続して手術、通院を繰り返さなければならないという場合が多い。そうなると、一割の負担であっても、月々数十万の費用がかかる事となる。
 このような育成医療制度での負担増は、子供を出産する事に対するリスクを増大させ、少子化の流れを加速させる事ともなりかねない。そしてそれよりも、高額な医療費を原因として、命が失われてしまう場合が増加する危険性も十分考えられるのだ。

 高齢者の医療費負担増に始まり、サラリーマンの3割負担への引き上げ等、遅々として進まない財政支出抑制の陰で、着々と我々国民の医療費負担は増大しつつある。
by karatsuzine | 2005-07-04 18:16 | 政治